肝炎医療コーディネーター座談会 近畿東海編

HCV抗体陽性者の受検・受診・受療にむけた活動 「モチベーション高く、肝炎患者さんに接する」

2021年5月26日(オンライン開催)

(司会)山本晴菜さん

内海雅美さん

大槻周平さん

新宅麗香さん

谷真澄さん

はじめに

私が肝炎医療コーディネーター(以下、コーディネーター)になったのは、消化器内科の専門医の先生に勧められたことがきっかけです。服薬説明などで患者さんと接することが多く、より意識を高めたいと思っていたので、とてもよい機会になったと思っています。
コーディネーターについては、その存在や活動を知らない方が院内にもいらっしゃいます。そのため、院内で理解や協力を得るために苦労されることもあるのではないでしょうか。本日はコーディネーターとして活動されている4名の方にお集まりいただき、「患者さんの拾い上げ」と「モチベーション」をテーマに、ご自身のご経験をお話しいただきます。(山本晴菜)

~肝炎ウイルス陽性患者さんの拾い上げにおける課題と対策~

抗体陽性の患者さんを受療につなげるために、さまざまな工夫を行う。
理解者を増やし、病院全体で取り組む姿勢を目指す。

新宅 2019年に、臨床検査技師長、消化器内科の医師、私の3名で肝炎ウイルス陽性患者さんのデータ収集と分析を開始し、その後、コーディネーターや消化器外科の医師などが加わり、2021年4月に肝炎チームが発足しました。現在は、医療安全管理センターの下部組織として活動しています。院内連携に関しては、肝炎ウイルス抗体が陽性と判明した患者さんのすべてが受療につながっていない現状もあるので、院内の意識をいかに高めるか、もっとよい注意喚起の方法はないか、などの工夫を日々行っているところです。

内海 私は医療クラークとして、患者さんへの肝炎ウイルス検査の結果説明を主治医に依頼したり、電子カルテに付箋を貼り付けたり、患者さんに医療費助成制度を説明したりすることを主な業務としています。電子カルテに付箋を貼っても主治医の先生に気づいてもらえないこともあるので、あらかじめ肝炎ウイルスの結果・説明文書をプリントアウトし、外来時に主治医に渡したり、定期的に受診している患者さんについてはこちらで消化器内科の外来予約を入れる、などの工夫をしています。どうしたら受診につながるかを、常に考え行動するようにしています。

山本晴菜さん

神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部
薬剤師

はじめは「何ができるだろう?」と悩むかもしれません。
でも大丈夫です!普段の業務にひと工夫でできることもありますし、Coはひとりではありません。目の前の患者さんに何ができるだろう、と考えることではじめの一歩は踏み出せます。

 当院では、検査科から抗体陽性者の情報を配信しますが、医療安全管理室からの情報であることを添えるようにしています。医療安全管理室からの連絡というと、皆さんドキッとして丁寧に対応しますから、理解や協力を得るという点では有用と感じています。また、当院の肝炎チームには病院長も入っていて、毎週開催しているカンファレンスでは、必要に応じて病院長から主治医に患者への説明の有無や今後の方針等の確認の連絡が入ります。病院長が肝臓専門医であるからこのような体制ができているのですが、病院と医療安全管理室の方針が一致していることは理解や協力を得やすい環境を作っていると思います。

大槻 当院では、肝胆膵内科が主導して患者さんの拾い上げを行っています。肝炎ウイルス検査で抗体陽性の患者さんの電子カルテを開くと、「この方は陽性なので、院内の肝胆膵内科、近所の消化器内科などを紹介してください」というメッセージが表示され、それに対応して主治医の先生が紹介をしてくださいます。しかし、すべての抗体陽性者が紹介されているわけではないので、さまざまな診療科の先生に肝炎に対する理解を深めてもらうことを目的として、医療安全講習会では肝胆膵内科の医師から肝炎について説明する時間を設けています。

山本 私がコーディネーターの認定を受けたのは2018年3月ですが、その時点でHCV抗体陽性の患者さんを拾い上げるシステムはありませんでした。そこで、陽性者の抽出ができるシステムを医療情報部と一緒に構築し、現在は主治医の先生方に消化器内科への紹介を積極的に働きかけるようにしています。
皆さんのお話にもありましたが、陽性者への対応についての情報を医療安全の部門から発信することはとても大切ですね。しかし、必ずしもこのような体制が取られているわけではありません。病院全体で取り組む雰囲気があると活動しやすくなりますので、それぞれの組織でできる方法を探ってみるとよいと思います。

内海雅美さん

近江八幡市立総合医療センター 医療秘書室
医療クラーク

HCV陽性者の消化器内科未受診ゼロを維持していけるよう取り組みを続けていきたいです。皆さんのご施設でも、それぞれの職種の強みを生かして、気負わずに出来ること・小さなことから一歩踏み出してみましょう!

~肝炎医療コーディネーターとしてのモチベーション~

モチベーションの秘訣は人それぞれ。
あなたの原動力は何ですか?

大槻 私は肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業の制度説明を担当しています。肝がんもしくは重度肝硬変の方が対象ですので、その多くは半年後には亡くなってしまいます。「早く治療につなげないと亡くなってしまう命がある、だから早く受診につなげなくてはいけない」という使命感が、コーディネーターとしての活動のモチベーションになっています。

新宅 私はモチベーションを保つ秘訣を人に相談したことがあります。その時に聞いた「現場の変化を感じていくことじゃないの?」という言葉が、とても心に入りました。現場での変化をきちんと把握することが、例えば、主治医から患者さんへのタイムリーな説明につながりますし、陽性者を漏らさないような仕組み作りにもつながると考えています。

内海 勉強会や市民公開講座などにも積極的に参加して、知識や経験を深めてコーディネーターとしての活動を続けていきたいと思っています。これらに参加すると、他の参加者や患者さんからの刺激が大きいので、モチベーションが高まります。

大槻周平さん

大阪市立大学医学部附属病院 患者支援課
事務職員

肝炎医療コーディネーターになられたみなさん!
肝炎医療コーディネーターは共通の業務があるわけではありません。それぞれができる範囲内で肝炎に対しての理解を世の中に広めていきましょう!

 抗体陽性の患者さんを治療につなげることができた、肝炎の患者さんが減ってきた、などの成果が感じられるとモチベーションがアップすると思います。三重県のコーディネーターの活動は始まったばかりです。当院での活動を三重県全体の活動に発展できるような組織作りも目指していきたいですね。活動の場が広がり、仲間が増えることもやりがいにつながると思います。

山本 患者さんを助けたいという思い、他のコーディネーターから受ける刺激、行った仕事の成果など、モチベーションの秘訣はさまざまですね。私も、自分が関わった患者さんがC型肝炎の治療を受けることができた、などの成果が実感できたときにモチベーションがアップしていると感じています。

新宅麗香さん

堺市立総合医療センター 地域連携センター
看護師

本来の業務の中で無理なくできることから始めましょう。
現状のなかで何が問題なのか?他メンバーと一緒に解決していくとよいと思います。

~肝炎医療コーディネーターからのメッセージ~

肝炎医療コーディネーターの役割は人それぞれ。
できることから始める。そして、仲間を作って頑張る。

大槻 「コーディネーターとして何かしなくては」と構えてしまいがちですが、自身の職種に応じたコーディネーターの役割は何か、を考えてみるとよいと思います。事務職員の私は、相談に来られた患者さんや市民公開講座に参加された方に肝炎への理解を深めてもらうことが最も大切と思って活動しています。これからコーディネーターになる方には、肝炎に関して一番知識があるのは自分、という自信をもって活動していただけたらと思います。

新宅 私は地域連携センターに所属していますので、院内での活動はもちろん、抗体陽性の患者さんを肝炎治療の実績のある地域の消化器内科の医師に紹介することでもコーディネーターの役割を発揮できていると思っています。1人で抱え込むのは、とてもしんどいです。チームで頑張っていけるとよいですね。

内海 コーディネーターの職種はさまざまですが、それぞれの強みを生かして患者さんにアプローチすることが重要と思います。まずは患者さんへの説明をしてみるなど、気負わずに小さなことから始めてみるとよいのではないでしょうか。

 自分1人ではできることも限られていますから、仲間を増やしていくことが大切だと思います。仲間が増えればできることが広がり、コーディネーターとしての仕事がどんどん楽しくなるかもしれません。

谷真澄さん

済生会松阪総合病院 安全管理室
専従医療安全管理者 看護師

一人でも多くの肝炎ウイルス陽性患者を受療につなげ、サポートをすることが肝炎Coの役割です。院内において、多職種で構成される良いチームを作ることで活躍の場も大きく広がり、やりがいにもつながります。

おわりに

コーディネーターの第一歩としては、気負わずに、日常業務のなかでできることから始めてみること、そして、自分が所属している部署のなかでは自分が一番肝炎に詳しい、と自信を持つことが大切といえそうですね。そして、1人で悩まずに、仲間を作ってチームで取り組む、それが皆さんからのメッセージかと思います。本日お話しいただいたコーディネーターの皆さんからは、困難なことに直面しても、粘り強く取り組むだけではなく、周りを巻き込んで解決している様子が伝わってきました。これをお読みになったコーディネーターの皆さんの今後の活動の参考になれば幸いです。(山本晴菜)