肝炎医療コーディネーター座談会 東日本編

HCV抗体陽性者の受検・受診・受療にむけた活動 「仲間とともに、できることから始めよう」

2021年5月27日(オンライン開催)

(司会)小関紀之さん

會田美恵子さん

小堺利恵さん

長谷川智子さん

前山宏太さん

はじめに

肝炎医療コーディネーター(以下、コーディネーター)の認定を受ける人の職種は多岐にわたります。看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、病院事務、臨床検査技師などなど。そうしたさまざまな職種が、それぞれの立場から患者さんをサポートできるという点がコーディネーターの役割として重要かと思います。皆さんはどのようなことを日々考え、活動されているのでしょうか。今日は、北海道から埼玉で活動するコーディネーターの方にお集まりいただき、コーディネーターになったきっかけをお話しいただくとともに、「患者さんを治療につなげるために必要なこと」、「今後の取り組み」をテーマにご意見をうかがいました。 (小関紀之)

~肝炎医療コーディネーターになったきっかけ~

1人でも多くの陽性者を受診につなげたい。
自分がよく知る肝炎、その患者さんをサポートしたい。

長谷川 私は、かつてインターフェロンによる治療を受けている患者さんを看ていて、「治療と仕事の両立を支援したい」と思うようになったのが、コーディネーターの原点だと思っています。2020年4月に肝疾患相談センターに着任しましたが、コロナ禍により、研修会などの集合型の活動が難しい状況になってしまいました。そこで、現在は院内連携に注力しています。当院では肝炎ウイルス抗体陽性者の拾い上げが十分に行われていなかったので、肝炎検査件数が最も多い眼科からアプローチを始め、徐々に院内での理解と協力が得られるようになっています。

小堺 私がコーディネーターになったきっかけは、新任の消化器内科の医師が発した「この施設では、肝炎ウイルスへの対応がなぜ遅れているのだろう」という一言でした。私も同様のことを考えていたので、上司に相談して肝炎対策を進める許可をもらい、同時期にコーディネーターの認定も取得しました。コーディネーターになってから積極的に進めたのが、院内で判明した肝炎ウイルス抗体陽性者を受診にまでつなげるシステムの構築です。陽性者のリストアップ、検査部医師への報告、主治医に対する消化器内科への受診勧奨などの流れをつくり、現在院内で運用中です。

小関紀之さん

獨協医科大学埼玉医療センター 臨床検査部
臨床検査技師

肝Coの活動は1人でできるものではありません。
仲間を信頼し、サポートし合いながら進めていくことが大切。
それが最終的には患者さんの笑顔につながります。

會田 最初は「コーディネーターって何をするのだろう」と思っていましたが、知るほどに興味を持ったので、認定を受けることにしました。現在は肝炎相談支援センターに所属し、疾患や治療の説明、保健指導、医療機関の受診案内、相談など、さまざまな面から患者さんをサポートしています。また、院内検査で抗体陽性が判明した場合には、入院・外来を問わずコーディネーターが院内連携の中心となり、陽性患者さんが受診できるように積極的に働きかけています。2020年は203名が抗体陽性と判明しましたが、その約75%を受診につなげることができました。

前山 当院では、HBV再活性化対策システムを臨床検査科が中心となって運用していましたが、抗体陽性者の拾い上げも重要であることから、私が担当することになりました。ちょうどその頃に青森県のコーディネーター養成が開始されたため、研修を受け、県内第1号の臨床検査技師のコーディネーターになっています。前職では民間企業で治験コーディネーターをしたのですが、その時の経験も、院内連携のシステム作りに活かせています。

小関 私は、以前から肝臓病教室の開催に関わっていたため、コーディネーターの認定も受けることにしました。臨床検査技師として、抗体陽性者がきちんとフォローアップされているかがとても気になったので、過去1年のデータを抽出して調べたところ、消化器内科受診にまで至っていない患者さんは少なくないことがわかりました。その状況を改善すべく、「ウイルス肝炎受診勧奨システム」を電子カルテに組み込むなど、さまざまな工夫を行っています。受診率は向上していますが、まだ完全ではないので、今後さらに強化していく必要があると考えています。

會田美恵子さん

東京医科大学茨城医療センター
肝疾患相談支援センター 看護師

最初は何をしたらいいのかわからない人も多いかも。
私は、患者さんが相談しやすい環境づくり、積極的な声かけ、多職種の方との連携を常に心がけています。

~患者さんを治療につなげるために必要なこと~

コーディネーターの役割を認知・理解してもらう。
職種ごとの専門性を活かす。

長谷川 1人でも多くの患者さんを治療につなげるためには、協力してくれる仲間が必要です。その仲間をどのように増やしていくかについては常に考えるようにしています。例えば、協力を求めるときに1人だけに声をかけてしまうと、その人が「1人で全部対応しなくてはいけないのか」とプレッシャーに感じてしまうことがあるので、複数の人に声をかけるようにしたり、その人たちの上司に必要な理由をきちんと伝えたりしています。そうすると、お願いした人たちが動きやすい環境が生まれます。

小堺 院内連携を行っていくうえで、臨床検査技師は大きな役割を担っていると思います。当院では10名ほどの臨床検査技師がコーディネーターとしての活動をしており、医師とのコミュニケーションを強めることによって、検査をオーダーした医師自らが陽性者の受診の必要性を判断するようになってきました。自分たちのスキルを活かすことで陽性者をすべて受診につなげる、という思いで日々の業務を行っています。私たちの取り組みをどう評価するか、というアンケートを院内の医師に行っていますが、約90%の医師が評価すると答えていただけたことが励みになっています。

小堺利恵さん

東北医科薬科大学病院 検査部 臨床検査技師

新しいことを始めようとすると、「負担が増えるのでは?」と周囲も警戒します。勉強会や院内セミナーなどで交流をはかりつつ、できることから少しずつ始めてはいかがしょうか。

會田 コーディネーターの後押しで抗体陽性者が受療に至るケースは多いのに、コーディネーターの存在を知っている人はまだ少ないのが現状です。私たちは、夏の2か月間、コーディネーター、医師、関連職員が「一生に1度は肝炎ウイルス検査を!!」と記したポロシャツを着て仕事をします。それにより、患者さんやそのご家族はもちろん、病院職員からも注目を集めることができました。また、コーディネーターに対する理解も進んだかなと思います。

前山 当院の院内連携は、まず臨床検査技師が手打ちの電子カルテアラートを作成し、それを医師に伝えるところから始まりました。その期間が約3年間あり、その後、自動アラートシステムを導入したことによって陽性者の情報が漏れなく医師に伝わるようになり、消化器内科への受診率は向上しました。さらに、医療クラークからも注意喚起のフォローをしていただくようお願いしたところ、受診はより促進しています。また、受診勧奨が必須であることを病院長、消化器内科、臨床検査科の連名で通達しており、それも院内の先生方の意識向上に大きな影響を及ぼしたと考えています。

小関 皆さんの取り組みはどれも参考になるものばかりだと思います。病院それぞれの規模や体制、事情がありますので、実情に合わせた方法で取り組んでみるとよさそうですね。当院について言えば、患者さんの相談窓口がないのが課題です。今後立ち上げを目指したいと考えているところです。

長谷川智子さん

北海道大学病院 肝疾患相談センター 看護師

一人で抱え込まないで。仲間は近くにいます。
そして、患者さん中心の活動を行っていけば、その仲間は必ず増えていきます。

~肝炎医療コーディネーターとしての今後の取り組み~

仲間を増やす。コミュニケーションの幅を広げる。
肝炎治療の重要性を継続して啓発する。

小堺 新しいことを始めるときには、負担を感じることもあると思うので、まずはできるところから始めるのがよいと思います。また、周囲の理解も得ないと進められないこともあるので、院内の勉強会やセミナーを開催するなどして、交流をはかりつつ、徐々に広げていくのがよいのではないでしょうか。そうやって業務の幅が広がることで、コーディネーターとしてのやりがいも見つかるだろうと思います。

前山 院内における受診勧奨のモチベーションを維持するためにも、定期的な啓発は必要だと考えています。肝炎撲滅の意義や陽性者拾い上げの必要性が共通認識として継続していけば、病院全体で取り組むという士気も高まると思います。当院では臨床検査科がその調整役を担っていますが、各施設の事情に合わせて、コーディネーターが主導するのがよいと思います。

長谷川 C型肝炎の治療が進歩していることをまだ知らないメディカルスタッフもいるので、もっと私たちが新しい情報を発信していく必要がありますね。また、コーディネーターはさまざまな職種の人が認定を受けていますから、いろいろな経験や知恵を共有し、肝炎医療コーディネーターの活動にとり入れていくことが大切だと考えています。

會田 コーディネーターとしての業務はいろいろありますが、「患者さんが相談しやすい環境を作る」ことも大切だと考えています。また今後は、院内での活動だけでなく、地域での活動も広げていきたいと思います。コロナ禍でままならないこともありますが、同じ地域のコーディネーターとの横のつながりも大切にしながら、業務を進めていけるとよいですね。

前山宏太さん

十和田市立中央病院 臨床検査科
臨床検査技師

肝炎治療の重要性や、肝炎患者さんの拾い上げの意義について、近くの人とまず情報共有を。それがやがては大きな渦となって、院内、そして地域に広がります。

おわりに

皆さんのお話を聞いて、新たな気づきがありましたし、自身の業務に取り入れたいと思うこともありました。こうして、コーディネーター同士が意見交換をすることはとても有意義ですね。情報を共有し、業務の質を高めることは患者さんの利益にもつながるはずです。今は、新型コロナウイルス感染症の流行のためにコミュニケーションをはかることに限界がありますが、早く対面での盛んな交流が復活することが望まれます。これをお読みになったコーディネーターの皆さんの今後の活動の参考になれば幸いです。(小関紀之)