肝炎医療コーディネーター座談会 関東中部編

肝炎撲滅のために必要な取り組み 「多職種のメディカルスタッフによる拾い上げ活動」

2021年6月30日(オンライン開催)

上道文昭さん

大沢幸嗣さん

高桑喜次さん

寺本いずみさん

はじめに

肝炎撲滅に向けた活動のステップは医療機関の事情によりさまざまですが、共通の目標は『陽性者を漏れなく拾い上げ、1人でも多くの肝炎患者さんを治療につなげること』だといえるでしょう。肝炎医療コーディネーター(以下、コーディネーター)をはじめ、多職種が適切なステップでそれぞれの役割を最大限に果たすことで、未治療の患者さんを医師へつなげる活動が促進します。今日は、関東圏で活動する方にお集まりいただき、「医師へ、未治療の患者をつなげるために」をテーマに、肝炎患者拾い上げ活動の現況と、それぞれの職種において果たすべき役割と課題についてお話しいただきました。

~肝炎患者拾い上げ活動の現況~

組織横断的な活動を強みに他職種との連携を図る。
地域との連携、院外での啓発も大切。

高桑 医事課の通常業務に加え、肝疾患医療センターの一員として拾い上げ活動に携わっています。当院ではまず、検体検査データからHCV抗体およびHBs抗原精密の陽性者を毎月抽出しています。検査結果が陽性の場合は、主治医宛に通知文書を送り、患者さんに検査結果を説明していただきたいこと、専門の診療科への受診がない場合は当院消化器内科への受診を勧めていただきたい旨を依頼しています。

上道 当院ではHIV抗体陽性者拾い上げ時のシステムを応用し、HCV抗体陽性者フォローアップ体制を整えています。検査室でHCVスクリーニング検査を実施し、陽性と判定された場合は病院アラートシステムに沿って、検査室から主治医に電話連絡が届くようになっています。このほか、陽性者リストを月報として肝臓専門医に送っています。陽性者については確認試験を行って診断を確定していきますが、こうした対応が難しい診療科については、私たちが橋渡し役となり肝臓内科専門医から確認試験の実施を要請するなど、対診実施を進めているところです。

上道文昭さん

東京医科大学病院 中央検査部

自分から動き出すことで、それに続く人がいて、やがてうまくつながることで活動が進んでいくと思います。
職種を超えて輪が広がっていくことが理想です。

大沢 薬剤師として、また専従の医療安全管理者として、組織横断的に活動を行っています。肝炎に関しては、術前肝炎検査の対策実施状況、de novo肝炎対策実施状況、 輸血後感染症検査のお知らせ配布状況などを毎月調べています。手術前の肝炎拾い上げについては、医療情報管理課(院内システム担当者)に協力を依頼し、手術3か月前までのHBs抗原、HCV抗体の検査結果を電子カルテからExcelデータで抽出できるようにシステム化したほか、手術施行例を対象にデータの抽出を毎月行っています。陽性の場合は消化器内科医へ情報提供し、必要に応じて受診を促してもらいます。なお、この抽出システムはde novo肝炎対策で作成済のシステムを応用したため、費用はかかっていません。
また、電子カルテ内から『肝炎ウイルス検査結果のお知らせ』を印刷すると、術前3か月以内の感染情報および感染情報に応じた患者説明文が自動表示されるしくみになっています。医療安全管理者としての組織横断的な活動を強みに、他職種との連携を図ることで、費用をかけず、医療法に基づき効果的に陽性患者を拾い上げ、消化器内科につないでいます。

寺本 当院は2011年に東京都の肝疾患診療連携拠点病院に指定され、肝疾患相談センターを開設しました。私は専従の看護師として、患者さんやご家族への相談支援を中心に肝疾患に関する情報提供を行うとともに、医療従事者向けの研修会などを企画運営しています。主な相談内容は、感染に関する不安、肝炎治療、受診相談、日常生活の注意点など多岐にわたります。必要に応じて肝炎ウイルス検査について説明し、自治体の無料検診や肝臓専門医を案内しています。また、過去に陽性と判定されたにもかかわらず未受診の方には、受診の必要性を説明し、近くの専門医療機関を紹介するなど早めの受診を勧めています。
このほか、栄養士や薬剤師などの協力を得て肝臓病教室や市民公開講座を実施していますが、コロナ禍ということもあり昨年からはウェブ会議システムを利用したりニュースレターを作成して、最新の情報提供を行っています。2019年には医療連携室からの声掛けで、港区のがん対策イベントに出展し、肝臓がん予防の視点から肝炎ウイルス検査の啓発を行いました。一般の方やがんサバイバーからの反響も大きく、地域との連携、院外での啓発の大切さを再認識しました。

大沢幸嗣さん

東京逓信病院 医療安全対策室

医療安全管理者としての日常からの組織横断的な活動を強みに、他職種との橋渡し役も担っていきたいと思います。院内の理解を得るうえで、対策の成果をきちんと報告することも大切です。
報告の際に実施率の低い診療科を責めるのではなく、実施率の高い科の対策状況等を説明することでより協力を得られやすい環境になっていると感じています。

~治療へつなぐため、各職種における課題とその解決に向けて~

すべての診療科の医師の認識向上に努める。
患者さんの声に耳を傾け、誤解や不安を解消する。

高桑 当院では2019年8月から毎月HCV抗体陽性率を調べているほか、科別の消化器内科紹介率や、HCV抗体陽性判明者の消化器内科受診率なども集計しています。消化器内科紹介率については診療科によるばらつきが大きく、陽性判明者の消化器内科受診率ならびに実際に治療へ結びついた患者さんの割合は必ずしも高くないのが実情です。今後は、メディカルセクレタリーとの連携を深めてきめ細やかな情報提供に努め、すべての診療科の医師の認識を高める必要があると感じています。

上道 当院では30以上の診療科がありますが、HCV抗体検査の結果を消化器内科/肝臓内科とそれ以外の診療科に分けて集計したところ、入院・外来ともに、陽性者の多くは消化器内科/肝臓内科以外の診療科で検出されています。つまり、確実に治療につなげるためには、専門診療科以外のHCV陽性者をいかにフォローアップするかが鍵と言えるでしょう。さらに、本当に治療が必要な患者さんを効率的にしぼりこむため、HCV RNA検査や線維化マーカーの状況も含めたチェックシステムを構築していきたいと考えているところです。また、消化器内科/肝臓内科が他診療科に向けて治療の必要性を積極的に示していく活動も計画しています。

大沢 1人でも多くの陽性者を消化器内科の受診につなげられるよう、科別の資料を作成して配布するなど、院内の周知に努めています。実際、『肝炎検査のお知らせ』の配布率上昇に伴い、未対策の患者さんが減少し、消化器内科受診率の上昇につながっています。これらの対策の重要性、妥当性の理解が得られるよう、対策実施後の成果については定期的に院内調査を行い結果を委員会等で報告するようにしています。

寺本 私は相談対応において「患者さんを知ること」、すなわち話を聴くことに重点を置いています。治療に至らなかった背景や理由はさまざまで、次の一歩を踏み出してもらうためには、患者さんの思いはどこにあるのかを見出すことが大切だからです。陽性者が受診、受療に進まない場合、陽性と聞いてショックを受け、あとは何を言われたのか覚えていないという声も聞かれます。一般に使われている薬剤の案内や副作用の正しい情報、治療のスケジュールや社会生活との両立、医療費助成など経済的な部分についても丁寧に説明を行い、誤解や不安を解消するお手伝いをしています。

高桑喜次さん

東海大学医学部付属病院
病院事務部医事課

「できることから始めましょう!」という呼びかけが、未治療患者さんの減少につながると思います。
何ができるかを考えることから始めましょう。

~これから拾い上げ活動を始められる方へ~

できることから始めましょう。
職場の話しやすい仲間と一緒に、少しずつ輪を広げるようなつもりで。

高桑 医療機関によって事情はさまざまだと思いますが、まず、「何ができるかを考えること」から始めてみてはいかがでしょうか。今日の座談会に参加させていただき、拾い上げ活動において各職種が果たす役割の大きさに気づかされ、行動に移すうえでたくさんのヒントをいただきました。事務職員としてまだまだできることがあるのではないか、と感じています。「できることから始めましょう!」という呼びかけが、未治療患者さんの減少につながっていくと思います。

上道 臨床検査では、パニック値すなわち極異常値(Critical Value)が検出された場合、必ず主治医へ報告しています。これに準ずる形でHCV抗体陽性も重要異常値ととらえ主治医へ報告することで、漏れなく拾い上げ、治療につなげる流れができます。臨床検査室はこの流れのスタート地点であり、大切な役割を担っていることを常に意識するようにしています。同様に、すべての職種がそれぞれ意識を高くもって拾い上げ活動の一歩を踏み出すことで、着実に活動の成果につながっていくと考えます。

大沢 医師に対しては、医療安全の観点に加え加算要件と合わせて説明することで、活動に対する理解が得られやすくなります。医療安全対策室として対策の実施状況を報告する際には、参考になる事例を紹介しながら、診療科での活動をスムーズに進めるための工夫を感じ取ってもらえるよう配慮しています。そして、協力していただける診療科があれば、まずそこから始めるとよいのではないでしょうか。この場合、最初から完璧を求めず、「まずは踏み出す」ことが重要だと思います。

寺本 多職種連携の鍵はコミュニケーションだと思います。普段から円滑にコミュニケーションがとれる環境があり、所属部署の理解が得られていると行動しやすく理想的です。小さなことから取り組んで成功事例を積み重ねていくことで、やがて大きな成果につながると信じています。職場の話しやすい仲間と一緒に、少しずつ輪を広げるようなつもりで始めてはいかがでしょうか。たとえ壁にぶつかったとしても、仲間と共有することで思わぬ打開策が見えてくることもあります。ひとりで抱え込まず地域の肝疾患センターやコーディネーターに気軽に声を掛けていただき、患者さんの治療の後押し方法を一緒に考えていけたらと思います。

寺本いずみさん

国家公務員共済組合連合会
虎の門病院 肝疾患相談センター

あなただからできることがあります。患者さんの思いがどこにあるのかを探る努力をして、私たちと一緒に患者さんやご家族に “ちょっとした後押し”をしてみませんか。

おわりに

院内での拾い上げ活動は、1つの部署あるいは職種で完結するものではなく、多くの職種がかかわってはじめて活動が加速します。HCV抗体陽性患者さんを肝臓専門医につなぐためのポイントとして、院内の多職種の協力が不可欠であること、未治療患者の明確化、抜け漏れを最小限にするための取り組み、肝臓専門医へ治療につなぐナレッジの共有などを示していただきました。これらを実践することは、病院のリスクマネジメントにもつながるでしょう。まずはできることから始め、それがやがて大きな取り組みとなって広がることが期待されます。