肝炎医療コーディネーター座談会 関東中部編

HCV抗体陽性者の受検・受診・受療にむけた活動 「声を上げ、行動に移して輪を広げよう」

2021年6月22日(オンライン開催)

(司会)橋本まさみさん

鈴木朋美さん

藤本寛之さん

矢野綾子さん

はじめに

一人でも多くのHCV抗体陽性者が適切な医療や支援を受けるためには、肝炎医療コーディネーター(以下、コーディネーター)をはじめ、院内のさまざまなスタッフが連携し、肝炎患者の拾い上げから受診勧奨までの流れをスムーズに進める必要があります。拾い上げ活動は大切な第一歩であり、それぞれの職種を活かしてどんな取り組みができるのか、周りのスタッフに手伝ってもらうためにはどうすればよいのか、日々迷いながら活動をされている方も少なくないと思います。今日は、関東・中部地方で活動する方にお集まりいただき、「肝炎撲滅のために今できること」をテーマに、職種を活かした肝炎診療に対する関わりやその思いをお話しいただきました。 (橋本まさみ)

~肝炎患者拾い上げの取り組み~

陽性者を受診につなげる仕組みづくり。
自動化に手作業を併用し漏れなく確実に。

藤本 現状を把握するため、医事課や看護師の協力のもと、過去1年間の検査数と陽性数の集計を2021年5月からスタートさせました。拾い上げた陽性者は全例、肝臓専門医にコンサルトすることになっています。検査で陽性が判明してから肝臓専門外来を受診するまでの流れを円滑に進めるため、電子カルテシステムを利用しています。例えば、検査結果が陽性の場合にアラートが表示され、患者さんへの説明文書や専門外来への受診勧奨文書が起動する仕組みとなっています。ただし、電子カルテに任せっぱなしにするのではなく、患者さんへの説明や専門外来への紹介が実践されたかどうかを検査科と看護師でダブルチェックし、対応が滞っている場合は患者さんに電話をして確実に専門外来を受診してもらうようフォローアップしています。

鈴木 当院では2019年11月に肝疾患サポートチームが発足し、肝臓専門医を中心に肝炎(HBs抗原、HCV抗体)陽性者のフォローアップ手順のフローチャートを作成し、肝炎陽性者の拾い上げを開始しました。具体的には、検査部がHBs抗原、HCV抗体陽性者のリストアップを週1回行い、その結果をもとに肝臓専門医が過去の受診歴、治療歴をカルテ上で確認し、未受診者を拾い上げます。私たちコーディネーターは受診歴や治療歴を再確認したうえで、検査を指示した医師宛てに「消化器内科受診の奨励」という付箋を電子カルテ上に貼付します。実際に消化器内科に受診したかどうかを約3か月後に確認し、未受診の患者さんには「受診を奨励する手紙」を自宅へ郵送させていただき、消化器内科へ受診するための調整を行っています。

橋本まさみさん

福井県済生会病院 看護部
看護師、肝疾患センター 相談員

問診時に必ず感染症と既往歴を確認し、未受診の肝炎ウイルス陽性者を受診につなげましょう。家族歴に肝疾患がないか確認し、肝炎ウイルス陽性の可能性がある人に検査を勧めましょう。

矢野 医療安全管理部には、1か月分の肝炎陽性患者の一覧が検査室から送られてきます。当初の予定では、電子カルテシステムにおいて陽性者に対して患者説明用紙が発行され、医師から患者さんへの説明状況や消化器内科への受診状況を確認できる仕組みのはずでしたが、システムが正常に稼働していないことが判明し、その修正に時間がかかってしまいました。このような事情から、現時点では手作業で先に述べた対応を行っている状況です。実際のところ、受診勧奨のメッセージが出ても消化器内科受診にまで至っていないケースが散見され、医師を含め院内全体に向けた啓発活動に力を注ぐ必要性を感じています。

橋本 当院は福井県の肝疾患診療連携拠点病院であり、私は内科外来とともに肝疾患センターの相談員として、またコーディネーターとして活動しています。拾い上げ活動においては、外来で関わる患者さんの感染症チェックを自分自身で必ず行っています。また、HCV陽性者をカルテから拾い上げるシステムを院内システムエンジニアに整備してもらい、そこで拾い上げられた過去の陽性者、さらに検査部が拾い上げた新規陽性者に対する受診の調整を行っています。

鈴木朋美さん

浜松医療センター 患者支援センター
患者支援室 看護師(助産師)

困ったときは一人で抱え込まず、迷わず声をあげましょう。
どんな目的で何をしたいのか、その思いを伝え、仲間を募りながら院内に広げていきましょう。

~院内スタッフの協力を得るための工夫~

施設管理者に肝炎拾い上げの意義を理解してもらう。
横のつながりを活用して認知を広げる。説明や相談など地道な努力を継続。

藤本 最初は検査科、医事課、看護師の3人で始めたのですが、私たちの取り組みを院長に話したところ、「病院として、ぜひやっていきましょう」と言ってもらったのが最大の契機でした。当院は病床数109床、常勤医10名程度の規模ということもあり、医局会で取り上げてもらったところ比較的スムーズに理解が得られ、話が進みました。周りのスタッフの協力を得るうえで、まずは院長にじっくりと話を聞いてもらい納得してもらうことが大切だと感じました。活動を始めた私たちが、自分自身の思いをしっかりと伝える姿勢が求められます。

鈴木 患者支援室の業務の一環として、通院・入院患者さん、地域の皆さんから病気の相談を受ける機会がしばしばあり、他職種との連携、橋渡しを日常的に行っています。その経験を活かし、拾い上げた患者さんを適切な職種に紹介することに力を注いでいます。その結果、患者さんの積極的な受診と治療の継続につながっているようです。医師への周知に関しては肝臓専門医の努力が大きく、肝炎患者拾い上げの重要性に関する認識は着実に広がっている一方、看護師への周知は必ずしも十分ではありません。今後は、肝疾患サポートチームの活動をさらに普及させ、より多くのスタッフに理解を得て手伝ってもらえるよう努力していきたいと思います。

矢野 院長を含む経営陣に対し、肝炎拾い上げの意義を理解していただくことが不可欠だと感じます。医局長会で肝臓専門医に説明してもらっているほか、私も医療安全管理者の立場から積極的にはたらきかけています。院内スタッフに少しずつ認知が広がってきたものの、「意義は理解できるし協力したいが通常業務に追われて時間がない」という声が多いのも実情です。現在、当院にはコーディネーターがおりませんが、現状を真剣に受け止めている看護師長が認定取得を考えており、院内スタッフの多くを占める看護師らの今後の協力に期待しているところです。なお、当院は日本医科大学の付属病院の1つであり、特にシステム導入など当院単独では決められない事項が少なくありません。収支の裏づけを明確に示すうえで医事課の協力は不可欠です。

橋本 院内全体に普及させるうえで、やはり院長の決断、それを受けて肝臓専門医が周知徹底の役割を担い、メディカルスタッフに広まっていくという流れが自然だと思います。一方、私たちが横のつながりをうまく活用し、理解を得ながら広めていくこともしていかなければならないでしょう。看護師のカンファレンスで説明をする機会をいただくなかで、「やらなくてはいけない!」という意識の変化もあらわれています。コメディカルが声を上げる勇気も必要だと感じています。

藤本寛之さん

あさひ総合病院 検査科 臨床検査技師

電子カルテの機能を活用することで効率的に進めることができますが、対応忘れがないかどうかを自身の手で確認することも大切です。そのためにも他の職種との連携を大切にしましょう。

~これから拾い上げ活動を始められる方へ~

他職種連携を大切にする。困ったときこそ迷わず声を上げる。
まず感染症と既往歴、家族歴を確認。

藤本 肝炎の拾い上げから受診勧奨、その後のフォローアップまでを漏れなく行うには、単一の部署だけでは難しく、他職種との連携が不可欠だと思います。これから拾い上げ活動を始められる方は、日常の業務を通じて他職種連携を大切にしていただけたらと思います。また、電子カルテの機能を院内に広く認知してもらうとともに、肝炎拾い上げ活動の基本的な流れを理解してもらえればと思っています。

鈴木 うまくいかないことがあると、どうしても声を上げるのに躊躇してしまいがちですが、困ったときこそ自分がどんな目的で、何をしていきたいのか、ということを周囲に伝える勇気が大切です。仲間を募りながら、医師にもきちんと伝えていく努力が求められると思います。

矢野 活動を進めていくうえでは、院長などの施設管理者にも理解してもらうことが大切で、納得のいく収支を明確に示す必要もあるでしょう。また、人員の確保は必須ですので、ステークホルダーになりうる部署を見極め、その部署の責任者に活動の内容、意義について理解を得ることも大事です。そして、ワーキンググループやタスクフォースなど少人数精鋭で仕組みづくりを進め、スムーズな運用につなげていくのがよいと思います。

橋本 コーディネーターとして実践していることは、まず、問診時にカルテを見るときには、肝疾患の患者だけでなく全患者について必ず感染症と既往歴を確認しています。これにより、未受診の肝炎ウイルス陽性者を受診につなげることができます。もう1つは、やはり全ての患者さんについて家族歴に肝疾患がないかを確認し、肝炎ウイルス陽性の可能性をチェックします。そして、陽性の可能性がある人には、「C型肝炎と言われたことはありませんか」など勇気をもって声をかけ、検査を勧めるようにしています。こうした声掛けが、拾い上げのスタートになると思います。

矢野綾子さん

日本医科大学千葉北総病院 医療安全管理部
医療安全管理者、看護師長

施設管理者、そしてステークホルダーになりそうな部署の責任者にも活動の主旨を理解してもらうことが不可欠です。
ワーキングやタスクフォースなど少人数精鋭で仕組みづくりを!

おわりに

本日の皆さんのお話を聞いて、拾い上げから受診勧奨までの仕組みを整え、軌道にのせるまでがいかに大変かがよくわかりました。自身の考えをしっかりもち、それぞれのスキルを活かして拾い上げ活動にかかわること、そして勇気をもって声を上げることが必要だと再認識しました。それぞれの医療機関の規模や体制、立場に応じて取り組み方もさまざまで、私自身も大変勉強になりました。この活動は単一の部署だけで成り立つものではなく、院内スタッフ全員が同じ認識をもって進めていくべきものです。これをお読みになった方々の今後の活動の参考になれば幸いです。(橋本まさみ)